【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「───木兎伯爵、八重さん、よくいらしたわね」
貫禄のある女性というのは、たった一声でその場を瞬時に緊張させる。
艶やかな薄紫色の着物に牛島家の家紋が入った黒い羽織姿の定子夫人は、萎縮している池田子爵には目もくれず、光太郎と八重にニコやかな笑みを向けながらやってきた。
「定子様、新年明けましておめでとうございます」
光太郎が挨拶をした隣で、一緒に深々と頭を下げた八重。
二人が出席してくれたことが嬉しかったのか、定子も機嫌が良さそうに持っていた扇子でゆっくりと自身を扇いだ。
「少し見ない間にまた一段と男前になったわね。そうそう、赤葦はお元気?」
「はい、お蔭さまで」
「そう、それは良かった。最近顔を見せてくれないからどうしているかしらと思っていたのよ。彼は若いけれど、とても良い話し相手になってくれるから」
その言葉に八重の胸がチクリと痛んだ。
もしかして赤葦は定子とも“関係”を持っているのだろうか・・・?
“面白いことに、高貴な御婦人ほど愛人を持ちたがるもの。それが若ければ若いほど、美しければ美しいほどいい”
赤葦のあの冷たい瞳も、仮初めだろうと愛の言葉を囁く時は熱っぽくもなるのだろうか。
いや、何を馬鹿なことを考えているんだ。
「若利」
八重が思い巡らせていると、牛島夫人は若利に向かって声をかけた。
「年寄りばかりが集まる新年会は、若い貴方達には退屈でしょう。若利、茶室で八重さんにお茶を点てて差し上げなさい」
息子が反論するわけないという自信があるのか、返事を聞かずに今度は光太郎の方に視線を移して微笑む。
「木兎伯爵にはお話があります。二人きりで、内密の話をしたいのだけどいいかしら?」
光太郎もそれは予想していたのだろう。
八重の方を見る事なく姿勢を正すと、光臣に似た華やかな笑みを浮かべた。
「───はい、もちろんでございます」
定子が何故、新年会に光太郎と八重の両方を呼んだのか。
何故、若利と八重が二人きりになるよう仕向けるのか。
“良い話し相手”だという赤葦と今までいったい何を話してきたのか。
それら全てを承知の上で、光太郎は定子夫人をエスコートするために右手を差し出していた。