【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
“旧領地の経済、旧家臣団の生活・・・木兎家が守らなければならないものは爵位以外にもたくさんあります”
華族という特権階級にあろうが、財政を維持するのは容易ではない。
五百町歩ほどの木兎家旧領地はいまだ貧しい農家が多く、何か事業を起こさなければ近代化が進む中で廃れていく一方だろう。
“十八の伯爵と十七の家令が、どうすればこの大きな家を守れると思いますか?”
赤葦はこの状況を理解している。
だから、売春まがいのことをしてまでも木兎家を守ろうとしているのだ。
「学生の分際で大きな口を叩くな。先代もそうだったが、驕り高ぶるのが木兎家の血筋なようだ」
ああ、光太郎さんが手を握っていてくれなかったら、私は怒りで我を失ってしまっただろう。
この人は決して高慢でも、横柄でもない。
ただただ木兎家の未来と、木兎家に関わる人たちを守ろうとしているだけなのに。
「・・・おい・・・父上は関係ないだろう」
だが光臣を侮辱されて我慢できるほど光太郎も寛大ではない。
手の平の熱が上がり、明るい髪に隠れた額にうっすらと血管が浮かび上がったその瞬間、それまで静かに見守っていた若利が口を開いた。
「池田子爵、まだ宴は始まったばかりというのに、随分と酔っておられるようだ」
「わ、若利殿・・・!」
若利の存在に気づいていないわけではなかっただろうが、まさか光太郎の肩を持つとも思っていなかったのだろう。
男はギクリとした顔で若利を見上げた。
「何をおっしゃる、私は酔ってなどおりませんぞ」
「酔っていない、と? いや、そういうことにしておいた良いと忠告しておこう」
凛々しい眉を顰め、普段はあまり表情を変えることのない顔に僅かながら怒りを浮かべる牛島家嫡男。
「酒の勢いなく俺の友人とその父君を侮辱する人間は、たとえ客人だろうと許さん」
若利と光太郎が並び睨みつければ、明王すらも萎縮する。
二人は八重に汚いものを見せたくないとばかりに男との間に立ちふさがると、射殺すような視線を落とした。
「ひっ・・・」
男は完全に及び腰となり、今度は剥げた脳天を光太郎と八重に突き出すようにして謝り始めた。