【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「緩くねぇか、木兎」
「おう、だいじょーぶ! ありがとな、黒尾!」
面の格子の奥からニッと笑顔を見せる光太郎。
しかし、黒尾にも分かるほどピリピリとした殺気を漂わせている。
「お前、ウシワカに八重ちゃんの前で良い恰好をさせるなよ」
「分かってるって」
顔こそ隠れているが、光太郎の目は今、獲物を狙う猛禽類そのもの。
絶対に負けられない。
絶対に渡すわけにはいかない。
「八重の目の前でウシワカに勝ってやる」
牛島夫人が八重を嫁に欲しがっていることは知っている。
自分に黙ってその口利きをしたのが赤葦だということも。
光太郎は壁際で神妙な面持ちの赤葦をチラリと見た。
「大丈夫だ、赤葦」
八重を木兎家以外の人間には渡さない───何があっても。
「赤葦が俺に隠れて何をしていようと、俺はお前の頑張りを無駄にはしないから」
竹刀を握る光太郎の手に力が込められる。
若利も準備が終わってこちらを向いていた。
さすがに光太郎が相手とあって、いつにも増して隙のない佇まいをしている。
「黒尾」
試合場に向かう直前、光太郎は数歩下がった黒尾に笑顔を向けた。
「お前との“約束”も忘れてねぇから、心配しなくていいよ」
「木兎・・・」
八重のためにも、赤葦のためにも、そして黒尾のためにも。
光太郎は若利に勝たなければならなかった。
気合いを入れながら若利と対峙する光太郎を目で追いながら、孤爪が黒尾の隣でボソリと口を開いた。
「───木兎サン、すごい闘志だね。ビリビリくる」
闇夜でも光る猫の目は、物事の深層を見抜く。
鋭い観察眼と冷静な分析力は、感情的な理由から光太郎の肩を持つ黒尾には見えないものが見えているようだ。
「でも・・・負けると思う」
孤爪は小首を傾げながら、細い瞳孔で光太郎をじっと見つめていた。
事実のみを述べるというのは時に残酷だ。
だが、可能か不可能か、その判断をさせて孤爪の右に出る者はいない。
「・・・・・・・・・・・・」
その孤爪が“負ける”と言った以上、それ以外の未来がないことを知っている黒尾は、珍しく険しい表情に変わっていた。