【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
これは練習といえど、一年の稽古の成果を試す実戦。
しかも、この世代に限っていえば日本でも指折りの実力者である光太郎と若利の対戦となれば、見物人はいつの間にか大変な数となっていた。
竹刀を身体の横に持つ光太郎は、防具越しに分かるほど真剣な表情をしている。
「前へ!」
互いに視線を合わせ、背筋を伸ばしたまま腰を曲げる立礼。
そして左手に持った竹刀を腰の高さまで引き上げてから前へ三歩進み、竹刀の先を抜き合わせながらしゃがみ込んで合図を待つ。
「・・・きれい」
二人の剣士を見て、八重の口から感嘆の言葉が漏れたのも無理はない。
普段は騒がしい光太郎だが、竹刀を構えるまでの無駄のない動作はまるで流水のように滑らか。
対する若利は、まるで不動明王のように何人たりとも動かすことのできない尊厳さを漂わせていた。
光太郎からは「負けたくない」という気迫。
若利からは「負けるわけがない」という自信。
その二つの強い感情は、離れた場所にいる八重すらも総毛立たせるほど。
赤葦は正座をしたまま背筋を伸ばし、光太郎と若利の一挙一動を一瞬たりとも見逃すまいと目に力を込めていた。
一つの呼吸の間、そして。
「始め!!」
師の合図とともに二人は立ち上がると、先に動いたのは光太郎だった。
額を狙って一気に打ち込んだところを若利が冷静に鍔で受け止め、そのまま鍔迫り合いに持ち込む。
「・・・若利様の恐ろしさはこれです。旦那様の打突を容易に受け止めてしまう腕力」
最初の打ち込みで決めてしまいたかった、と赤葦は眉間にシワを寄せた。
「鍔迫り合いを受ける側は、ものすごい圧力を感じてしまう。そこを崩して引き技で一本取るんです」
赤葦の言葉通り、若利は鍔迫り合いから光太郎を引き込んで面に打ち込んだ。