【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
「父を知る人は皆、私が父親似だと言うわ。写真を見る?」
そう言って、母の実家から持ってきた荷物の一つを解き、銀製の写真立てを取り出した。
それは十五の春に、八重が社交界デビューをしたことを記念して撮った家族写真。
セピア色で分からないが、八重は桜色のドレスを纏って礼装の貴光の隣に立ち、最前列には椅子に座る母がいる。
見るからに幸せそうな家族に不幸が訪れることなど、この時誰が予想しただろうか。
「本当に・・・御顔立ちは貴光様に似ていらっしゃるのですね」
「自分ではよく分からないけれど・・・」
八重は気性も、顔立ちも、貴光によく似ていると褒められてきた。
光臣もそんな八重だからこそ、引き取りたいと願ったのかもしれない。
英国生まれながら、紛れもなく木兎家の血を色濃く引いている少女であると───
「貴光様は、本当にお優しい方だったのでしょう・・・八重様のように・・・」
母が事故死し、父も突然隠居してしまった光太郎にとって、八重の存在は慰みになるはず。
・・・使用人としてこれほど喜ばしいことはない。
「申し訳ございません、長話がすぎました。旦那様が八重様と一緒に朝食を取りたいと仰っていました」
「大変・・・では急がないと」
しかし、八重の着替えを手伝っている間も、黒い髪を梳かしている間も、京香はずっと浮かない表情をしていた。
そして、八重が光太郎と朝食を取るために部屋から出て行った瞬間、思いを抑えきれなくなって両手で顔を覆う。
「ああ・・・ッ・・・」
窓の向こうには、冬支度を始めようとしている小鳥達の囀り。
冷たい風が新鮮な朝の空気を運び入れてくれるのに・・・
「───光太郎様・・・!」
京香は消え入りそうな声で、主の名を呟いていた。