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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第3章 秋霖 ②







八重がダイニングルームに入ると、中央の大きな食卓ではすでに光太郎が席についていた。

「おはよ、八重」
「おはようございます」

学習院の制服である紺の詰襟が、身長の高い光太郎に良く似合っている。
席に着くのも忘れて見惚れていると、不満そうな声が飛んできた。

「早く座れよ、腹が減った!」
「ご、ごめんなさい」

口を尖らす光太郎のすぐ後ろには、“旦那様を待たせるなんて何事ですか”とでも言いたげな顔の赤葦。
こちらはオーダーメードのシャツに黒い共布のベストとズボンという姿だ。
しかし、その咎めるような視線に委縮し、慌てて八重も席につくと光太郎が無邪気な笑顔を向けてきた。

「これから毎日、一緒に朝食を食おう」

窓から差し込む朝陽よりも明るいその笑顔に、心温まらぬ人間など存在し得るだろうか。
光太郎がいるだけで、広い食堂全体が華やぐよう。

すると赤葦が無表情のまま八重の真向かいの席に座った。

「時間がありません、早く頂きましょう」

見れば、テーブルの上には赤葦の分も朝食が用意されている。
この家では使用人も主と一緒に食事をするのだろうか。

「旦那様のご意向です」

八重の疑問を悟ったのか、赤葦は冷めた表情でフォークとナイフを手に取った。

「御一人で食事をしたくないと、いつも我儘を申されるので。無論、八重様が来られるまでとの約束だったのですが」
「何だよ、赤葦。飯はみんなで食った方が美味いに決まってるだろ」
「使用人と食事の席を共にするなど・・・先代が知られたら何と仰られるか」
「父上はもう関係ない、今の当主は俺だろ」

子どものように拗ねてみせる光太郎に、壁際に並んでいた闇路や女中達がクスクスと笑い始めた。
彼らにとっては主人というより、可愛い弟のような存在なのかもしれない。
それだけ使用人達が光太郎を見る目は温かだ。

そしてそんな彼にペースを乱されるのは赤葦も例外ではない。

「・・・ご自分が当主であるというご自覚があるのなら結構です。さぁ、頂きましょう」

口ぶりこそ変わらないものの、先ほど八重が食堂に降りてきた時に漂わせていた刺々しい空気はもうそこに無かった。





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