【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
“赤葦様はもともと旦那様の一学年下で学習院に通っておられました。しかし、旦那様が爵位を継がれたのと同時に自主退学し、家令職に専念されるようになったのです”
以前、闇路からそう聞いた時、どこか寂しい気持ちになった。
赤葦は自分と年齢が変わらないのに、若者に許されているはずの権利や娯楽を放棄して今は華族社会に光太郎を認めさせるために心を凍てつかせている。
でも・・・
竹刀を振る光太郎や若利を見つめる赤葦の目には、興奮の色がありありと浮かんでいる。
「赤葦も、剣道が好きなの?」
八重の問いかけにも気づかないほど彼は今、剣道稽古の風景に夢中だ。
すると、暇そうに辺りをうろついていた天童がピョコンと顔を覗き込んできた。
「あかーし君の腕前も相当のモノだったヨ。もし続けていれば、錬士ぐらいにはなれたんじゃないかな」
「そうだったんですか」
やはり木兎家のために剣道を辞めたのか・・・
光太郎に規則正しい生活を厳しく言い聞かせている割に、剣道の稽古に関することに対しては寛容なの頷ける。
赤葦が剣道をしていた頃の話をもっと聞きたくて、天童の方に顔を上げたその時だった。
「───気安く八重様に話しかけないでください」
それまで道場の真ん中を眺めていたはずの赤葦の目が、いつの間にか八重と天童に向けられていた。
稽古が始まってからずっと機嫌が良さそうだったのに、今度は不快感があらわになっている。
赤葦はどうして天童をここまで嫌うのだろうか。
天童も天童で、火に油を注ぐようなことばかりを言う。
「そんなに心配しなくても、八重ちゃんには何もしないよ。世間話くらいしたっていいじゃない」
「貴方の世間話は、八重様にとって害になりかねませんので」
「酷!! さすがの俺も傷つくよー」
大袈裟に傷ついてみせる天童に対して、赤葦の態度はどこまでも冷やかだ。
もしかしたら、二人の間で過去に何かあったのかもしれない・・・そう思っていると突然、稽古をしていた門下生たちが一斉にどよめき始めた。