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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第6章 冬霞





「───なぁ、研磨」

赤葦や白布、天童、月島たちのやり取りを見ていた黒尾が、壁にもたれかかりながら欠伸をしている弧爪に声をかけた。

「研磨も俺の応援してくれていいんですよ?」
「え・・・面倒臭い」

“何で今さらそんなことを言うの?”と眉間にシワを寄せる弧爪を見て、黒尾は溜息交じりに笑った。

「ったく、相変わらずだな。お前も赤葦や白布を見習えば?」

「別に俺はクロんちの家令になるわけじゃないし」

「でも、黒尾財閥の“脳”にはなってもらうからな」

「十年後もクロがそう望んでいるならね」

面倒くさそうにしながらも相槌を打つ弧爪。
本当に望めば自分の好きなように生きることもできるが、黒尾から離れようという考えは彼に無い。


「その時は俺が血液になって、お前に酸素を運ぶからな」

「・・・なにそれ、意味分かんない」


十年を待たずして弧爪は黒尾が率いる財閥の“脳”となり、日本の経済を動かしていくことになるのだが、それはまだ少し先の話。

今はまだ他人に干渉されることを嫌う、引っ込み思案な少年だった。



そして弧爪と形は違えど、誰かの影となって生きるしかない男がここに、もう一人。


「おーい、そろそろ稽古が始まるぞ!!!」

差し入れの握り飯で腹も膨れ、支度も整った光太郎が、若利、黒尾、澤村を手招きしている。
袖を肘まで、袴を膝までまくり上げ、すっかりと気合十分のようだ。


「・・・八重様」


そんな光太郎を見て、赤葦が小さく呟く。


「私は、剣道をしている時の旦那様を見るといつも心身が震えます」


それは今までに聴いたことのない赤葦の声。


「外国を知る八重様から見たら、私は砂一粒にも満たない小さな存在かもしれませんが・・・」


世が世なら、あの人は大剣豪として名を馳せただろう。


「剣を持って対峙すると、今この瞬間は旦那様と自分が世界の主役なのではないかという錯覚に陥るんです」


木兎光太郎という光が差す世界は鮮やかで力強い。


「私は旦那様の剣を持つ姿が好きです・・・心から」


嘘偽りを疑う余地すらない、真っ直ぐな瞳。
赤葦は今、家令という立場を忘れ、かつての自分がそうしていたように純粋な尊敬のまなざしを光太郎に向けていた。









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