【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
何故だろう、嬉しい。
普段、使用人達をまとめ上げる役目を担っているせいか、赤葦は同年代の青年たちよりもずっと大人びている。
光太郎と一緒に居る時でさえ、主人の我儘を窘めてばかりだから、“年相応”の赤葦を八重は見たことがなかった。
だが、今はどうだろう。
白布と言い争いをしている赤葦は、どこから見てもごく普通の十七歳だ。
「なんだか嬉しそうだね、八重ちゃん」
天童にそう言われて初めて、嬉しい気持ちが表情にまで出ていたことに気づく。
慌てて顔を隠すように下を向くと、天童はフフフと笑って続けた。
「嬉しい気持ちはワカルよ。あかーし君はもう少し自分を大事にした方がいいもんね」
瞼を三分の一ほど落とし、口元を緩めながら赤葦を見る天童。
まるで赤葦の“何か”を知っているような口ぶりに、背筋が凍るような感覚を覚えた。
“十八の伯爵と十七の家令が、どうすればこの大きな家を守れると思いますか?”
まさか・・・
“私に抱かれたいという権力者が居れば抱くし、私を抱きたいという権力者がいれば抱かれもします。それが女性であろうと、男性であろうと───”
木兎家のため、赤葦が権力者やその妻たちと姦通していることを知っているのだろうか。
天童の言葉の真意を確かめるため、八重が口を開きかけたその時。
赤葦と言い争いをしていた白布の怒声が飛んできた。
「天童さん! 貴方も牛島家の使用人なら、ヘラヘラしていないで少しは若利様を応援したらどうですか!」
「えー、別に俺は若利君が勝っても、ぼっくんが勝っても、どっちでもいいもん」
「はぁ?!」
のん気な天童とは対照的に、白布は今にも血管が切れそうな顔をしている。
黙っていれば大人しそうな顔立ちだが、かなり好戦的な性格をしているようだ。