【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
白布は八重に自己紹介を終えると、改めて赤葦の方を向き直した。
「ところで、赤葦。小耳に挟んだんだが、光太郎様が若利様から一本取るつもりというのは本当か?」
“なんて面白い冗談なんだ”と、不快感の混じった笑みを浮かべている。
彼は若利が誰かに負けるなんて夢にも思っていないようだ。
しかし、それは赤葦も同じだった。
「本当だよ。今日の光太郎様は並々ならぬ気合いが入っているから、若利様にも勝ってしまうだろうね」
その瞬間、ビキビキと音すら聞こえてきそうなほどの青筋が白布の額に浮かび上がる。
すると、天童がクックッと笑いながら八重に耳打ちをした。
「八重ちゃん、八重ちゃん。今からあの二人、とっても面白くなるよ」
「・・・?」
それを合図に始まったのは、二人の家令による主人自慢合戦。
「はあ? 若利様が光太郎様に負けるだと? お前、なに寝ぼけてんの」
「白布こそ顔を洗ってきたらどうだ? 光太郎様が若利様に勝てないなどという幻想をまだ見ているようだからな」
「若利様は三本の指に入る腕前なんだぞ」
「光太郎様だって、気分さえ乗れば三本の指になど軽く入る」
白布と赤葦の間でバチバチと火花が散っているようだ。
そんな二人を見て、天童は腹を抱えながら笑っている。
「あの二人はいつもああなの。賢二郎もあかーし君も、自分とこの主人が一番だって言って引かないんだよ」
ああ、それで“気は合うけど仲が良くない”と言ったのか。
いつもは冷静な赤葦が珍しくムキになっている。
「若利様が光太郎様に勝った数は、優に三十を超えるんだぞ」
「それは稽古でのことだろ。今日のように見物人がいる時の光太郎様は違う」
「見物人が居ようが居まいが、若利様は常に強い」
「残念だけど、調子に乗った時の光太郎様はそれ以上だ。特に今日は八重様の前で格好つけようとなさるだろうから、なおさらね」
互いに一歩も引かず、“うちの主人の方が強い”と睨み合う白布と赤葦。
忠誠心もあるかもしれないが、白布は若利を、赤葦は光太郎を、絶対的なものとして尊敬しているからこそなのだろう。
そんな二人を見て、八重からも自然と笑みが零れていた。