【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
そんな研磨の“天敵”である天童だが、彼もまた剣道をするつもりはないらしい。
「八重ちゃんも、ぼっくんの応援?」
「はい、今年最後の稽古だというので」
「俺も。若利君の応援に来たんだヨ」
着物の袖をヒラヒラとさせながら近寄り、顔を八重の鼻先に寄せようとしたその時だった。
「八重様に馴れ馴れしくするのはやめていただきたい」
黒尾にもそうしたように、八重と天童の間に立ちはだかったのは赤葦。
そしてほぼ同時に、赤葦と似た雰囲気の男が天童の着物を引っ張っていた。
「“若利君”じゃなく“若利様”でしょう。何度言えば分かるんですか、天童さん」
斜めに切りそろえた前髪が特徴的な青年が、目を吊り上げながら天童を見ている。
歳の頃は八重達と同じ。
彼もやはり稽古着は着ておらず、きっちりとした白いカラーシャツに黒のベストとトラウザーズという洋装だった。
「やあ。久しぶりだね、白布」
赤葦は八重に一歩下がるよう後ろ手で押すと、冷めた顔を白布に向ける。
すると彼も冷やかな目で赤葦を見据えた。
「・・・赤葦か、久しぶり」
二人ともはしゃぐような性格ではないのか、互いに“久しぶり”と言っているのに少しも嬉しそうな顔をしていない。
白布の方は面倒くさそうに眉間にシワすら寄せていた。
「困るな。牛島家の書生殿は、礼節がなっていないようだ」
「失礼。言って聞くような人ではなくて、俺も困っている」
当の本人はどこ吹く風で、赤葦の横をするりと抜けると、八重の前に立って顔が同じ高さになるように屈んでくる。
「あの二人、気は合うんだけど仲が良くないんだよネ」
あの二人とは、赤葦と白布のこと。
天童が内緒話をするように八重の耳元で囁いているのが気に障ったのか、赤葦は後ろを振り返るや、吊り気味の目をさらに吊り上げた。
「・・・八重様から離れろ」
「なに、いきなり。賢二郎より怖い顔しないでよ」
「あー、天童。赤葦は八重ちゃんの用心棒だから、あんまり刺激すると噛みつかれるぜ」
黒尾が忠告するように言うと、天童は“へぇ”と口の端を上げながら赤葦と八重を交互に見た。