【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「赤葦を牽制するのはやめなよ、クロ・・・」
もう一匹の“猫”が黒尾の後ろからヌルリと姿を現す。
木兎や黒尾と比べるとかなり背が小さく貧相なその男は、顔の大半を隠す長髪の間から無気力な瞳をのぞかせていた。
「何だ、弧爪も来ていたのか」
赤葦も彼のことを知っているのか、そちらの方へ目を向けて軽く会釈をした。
「うん・・・クロに無理やり連れてこられた。こういう所、苦手なの知っているのに」
「お前も大変だな」
彼とは波長が合うらしく、珍しく態度を軟化させている赤葦。
確かに黒尾とはまったく違う控えめな男だが、共通の友人だろうか・・・?
「おい、研磨。赤葦とばかり話してないで、八重ちゃんに自己紹介しろよ」
「・・・ムリ」
黒尾に促された途端、ケンマと呼ばれた彼は八重から逃げるように髪で顔を隠してしまった。
その反応は予想通りだったのか、赤葦がため息を吐きながら助け船を出す。
「彼は弧爪研磨という者で、黒尾さんの幼馴染です。私達と同い年になります」
同い年といっても、赤葦が相当大人びているせいか、背中を丸くして黒尾の後ろに隠れている弧爪はかなり幼く見えた。
しかし、ジッと人を観察するようなその瞳は、全て見透かされそうな薄すら怖さも感じる。
「弧爪、この方が木兎八重様だ」
「知ってる、クロからいつも聞いてるから・・・」
彼はとても不思議な少年だった。
怯えるように初対面の人間から顔を背けるくせに、向けてくる視線はまるで精密機械のように相手の情報を抜き出そうとしている。
「それに、俺もちょっと会ってみたいと思ってたし」
研磨は妖し気な流し目で八重の喉元を見つめた。
幼い頃から常に隣にいた幼馴染の黒尾が、ある時からずっと執着してきた女性。
なるほど、見るからに箱入り娘だが、木兎家特有というべきか我の強さも垣間見える。
こういう人は、自分の信念のためなら周囲が驚く危険な行動も取りかねない。
「本当・・・面白いよね」
弧爪は黒尾の陰に隠れながら、唇の右端を僅かに上げていた。