【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
今日は稽古納めということもあって、全員が集合している門下生の中には、八重の知っている顔もあった。
「お、本当に八重ちゃん来たんだな」
手ぬぐいを首に巻いた姿でやってきたのは黒尾。
いつもは澄ました顔をしているが、今日はさすがに汗をにじませながら、深紅の稽古着を光太郎と同様に捲っている。
「木兎家のお嬢様が、こんな男臭い所に居て大丈夫?」
黒尾がニヤニヤとしながら八重のそばに寄ろうとすると、その二人の間に割って入ったのは赤葦だった。
「黒尾さん、汗をかいているなら自重していただけませんか」
「自重? 相変わらず八重ちゃんの用心棒やってんの、お前」
「・・・・・・・・・」
不機嫌さを隠そうとしない赤葦が面白いのか、黒尾は意地の悪い笑みを浮かべた。
この二人はどうも馬が合わないらしい。
そういえば・・・
“・・・赤葦京治には気を付けろ”
以前、木兎邸で会った時の黒尾の言葉を思い出し、八重は少し不安になりながら睨み合う赤葦と黒尾を見上げた。
もしかして過去に、二人の間で何かあったのだろうか。
その割に光太郎は“いつものこと”とばかりに、さして気にしていないようで、稽古前だというのに差し入れの握り飯を頬張っている。
「そんなに心配なら、そもそもこんな男ばかりの場所に八重ちゃんを連れてくるなよ」
「旦那様と八重様が望まれたことです」
「“旦那様”ねぇ・・・」
黒尾は猫のように瞳孔を細めながら赤葦を見据えた。
口元は笑っているが、相手に懐を簡単に許さない警戒心の強さが垣間見える。
光太郎と二人でいる時の黒尾からはこんな空気を感じなかったのに・・・と八重が首を傾げた、その時だった。