【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
底冷えが厳しい年の瀬。
八重は赤葦と共に、光太郎が通う剣道道場を訪ねた。
西洋化のあおりを受けて一時は衰退したものの、明治十年の西南戦争をキッカケとして、その存在価値を再度見直されるようになった日本武術。
そのような背景からか、日本橋にある江戸時代から続くその道場では、剣の道を究めんとする「剣道」よりも、その名の通り剣の技術を究める「剣術」に重きを置いていた。
二人が馬車から降りると、冬の冷気を吹き飛ばすような猛者達の気合いの入った怒声が道場から飛んでくる。
「八重様、お足元に気を付けてください」
今年最後の稽古だからか、それとも若い男衆の勇姿が見られるからか、道場の前は見物人でごった返していた。
しかし、頭一つ飛びぬけて背が高い赤葦の先導のおかげで、思いのほかすんなりと入り口まで辿り着く。
「おお、八重!! よく来たな」
準備運動を終えた光太郎がさっそく二人を見つけ、持っていた竹刀をブンブンと振り回しながら駆け寄ってきた。
「光太郎さん! すごい人ですね」
「だよなー。普段からこんだけ見物人がいれば、もっと張り合いが出るのにな」
男臭い熱気のせいで、道場の中は火を焚いていないのに蒸し暑さすら感じる。
肘の上まで稽古着をまくった光太郎の額にはすでに大粒の汗が滲んでいた。
「今日は俺の勇姿を見せてやるからな!」
「はい」
満面の笑みを見せる光太郎はどうやら、町娘にも人気があるらしい。
開け放した道場の入口を陣取っている若い女たちからも、“光太郎様!”という黄色い声援が飛んでくる。
「す、すごい人気ですね」
「おう! よく饅頭の差し入れとかしてくれるんだ」
光太郎は天性の人たらしなのだろう。
他人のあからさまな好意にも臆することなく、ヒラヒラと手を振って応えている。
「・・・・・・・・・・・」
赤葦はそんな光太郎の横顔に、日美子の面影を見出していた。
───誰にでもすぐ気を許す、日美子様譲りの性格は直していただかなければ。悪い噂はすぐに立つものだ・・・