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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第6章 冬霞





玄関前に寄せた二頭立ての馬車。
人力車を使ったとしても学習院まで二十分ほどの距離だが、華族の生徒たちが頑なに馬車を使うのは権威を見せるためだろう。

光太郎はむしろ自分の足で歩きたかったし、その方が黒尾のような平民の友人たちと近しくなれるような気がしていた。


「なぁ、赤葦・・・」


この寂しさはきっと、華族の人間にしか分からない。


「お前、八重に何か言ったの?」


玄関から馬車までの十数メートルを並んで歩く赤葦に、光太郎は静かな目を向ける。


「もし八重が他の家に嫁いだら、俺はあの馬車に乗る資格が無くなるな」


自嘲気味に笑う光太郎だったが、どこかでそれを望んでいるようにも見える。
そんな主を見ているのが苦しいのか、赤葦は眉間にシワを寄せながら口を開いた。

「ご心配には及びません。たとえ八重様に“何か”が起ころうとも、木兎家には私がいます」


“父上が残した二つ目の言いつけは、赤葦を木兎家から出してはいけないということ”


「私は昨夜、八重様に木兎家のためにならない決断はしないで欲しいと念を押しました。たとえ、その決断がどのような形でも───」


木兎家の名も、血も、絶対に失わせはしない。


「“赤葦家”の人間が仕える限り、木兎家が断絶することなどありえません」


貴方はただ、俺を信じてくれればいい。
八重様を血と肉にして喰らってでも、貴方を守ります。

そして、俺が望む見返りはただ一つ。

いつか貴方が姉さんを・・・救ってください。
俺とは違って“純粋”な赤葦である、京香を───


赤葦の言葉にならない想いを汲み取ったのか、それとも会話の流れからの偶然か。


「分かってるよ、赤葦!」


朝の光を浴びたその顔は何よりも輝いていて。
その心の中には不安もあるだろうに、光太郎は赤葦を安心させるように笑った。

“元服”という制度があった昔ならともかく、十八歳の当主など世間から見れば子どものようなもの。

それでも光太郎は光太郎なりに、八重は八重なりに、そして赤葦は赤葦なりに。

三者三様の形で、名家・木兎家を守ろうとしていた。









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