【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「おはよ、八重!!」
これまでと変わらず一緒に朝食を取ろうという約束だから、八重がダイニングルームに降りていくと、すでにテーブルについていた光太郎が明るい笑顔を向けてきた。
彼もまたすっきりした顔のところを見ると、八重に全てを話したことで胸につっかえていたものが取れ、ホッとしているのかもしれない。
赤葦はそんな光太郎の左手側の席で、姿勢を正して座っていた。
相変わらずの無表情だが、それも“日常”ということだろう。
「おはようございます、光太郎さん」
ずらりと並んだ、英国式の朝食。
日本ではまだ珍しいライ麦のパンに、八重の好きなイチゴのジャムまで添えてある。
光太郎は和食の方が好きなのに、きっと八重を気遣って用意させたのだろう。
「昨日はよく眠れた?」
「はい、ご心配をおかけしてすみません」
光太郎の質問に八重が頷くと、正面に座っている赤葦のバターナイフを持つ手が一瞬だけ止まった。
しかし、やはり表情に変化はない。
八重はそんな家令の顔をチラリと見てから先を続けた。
「昨日、赤葦と少し話をして思ったことがあるんです」
パンを口に運んでいた赤葦も静かに八重に目を向ける。
その瞳の奥には僅か・・・ほんの僅かだが、不安のような、怒りのような、暗い感情が込められているようだった。
「光太郎さんと私には、時間が必要だと思いました」
「時間?」
「光臣様のご意思を無視するわけではありません。ですが、せめて光太郎さんが学院を卒業し、貴族院に正式に入られるまで結婚の決断は待った方がいいと思います」
それまで、少なくとも一年の時間がある。