【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第3章 秋霖 ②
「赤葦家は代々、筆頭家老として木兎家をお支えして参りました。それは御維新の後、大名から華族となられた今も変わりません」
赤葦家は常に木兎家に寄り添い、自分の命よりもまず主君の命を優先してきた一族。
「京治は赤葦家の長男として、木兎家に全てを捧げるよう父に厳しく育てられました。そのためか、あの歳にしては少し頑ななところが・・・」
全ては御家のため。
友人関係すら制限され、いずれ主となる嫡男・光太郎を支えるために、必要な知識と教養だけを身に付けさせられてきた。
「しかし、八重様をお迎えするにあたって、誰よりも張り切っていたのは京治にございます」
光臣が八重を本家に迎えるよう言い残した時、確かに使用人達は戸惑った。
貴光の実子とはいえ、すでに平民として母親の実家に引き取られた未婚の女性を妾としてではなく、婚姻・養子縁組無しで正式な伯爵家の人間とするためには宮内省に認めてもらわなければならない。
爵位を継いだばかりの光太郎はそれどころではなかったし、一執事の闇路にはそれだけの家格がない。
誰もが無理だと思っていた矢先、全ての手続きや華族議員への“根回し”を行ったのは赤葦だった。
「この寝室も、光臣様が日美子様のためにご用意された、この御屋敷でもっとも美しいお部屋。京治自らが改装に立ち合い、時計や寝具など細部にいたるまで指示しておりました」
寝る間も惜しんでまだ見ぬ令嬢を迎える準備をしている赤葦は、姉の京香の目には生き生きと映っていた。
「昨日も私が止めるのを聞かず、雨の中、半刻も前から外に出て八重様をお待ちするほどで・・・」
馬車が見えてから慌てて整列する姿を見せたく無かったのもあるだろうが、早くお会いしたいという気持ちもあったに違いない。
京香はそう考えているようだった。
「京治は誤解されやすいですが、八重様には旦那様と同様の忠心を抱いております。だからどうか───」
「もう分かったわ、京香さん」
八重がやんわりと遮ると、京香はハッとした表情に変わり、慌てて頭を下げた。