【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
会話が途切れてから数分。
「八重様、もうお休みになってください」
張っていた気が抜けたのか、椅子に座っている八重は船を漕ぎ始めていた。
その線の細い横顔を見ていると思い出す。
この人に初めて会った時もやはり衝撃的だったことを───
「ん・・・赤葦・・・? 今、私は寝ていた・・・?」
「少しだけ。ベッドまでお運びしましょうか?」
「だ、大丈夫よ! 子どもじゃないのだから。それに貴方の前で横になるなんてはしたないことはできません」
驚きと恥ずかしさで目が覚めてしまったのか、八重は頬を赤くしながら怒っている。
思いつめた様子はもう無いし、これならもう一人にしても大丈夫だろう。
「分かりました、それでは私は下がらせて頂きます。夜分遅くにすみませんでした」
話はもう済んだし、光太郎や京香も部屋に戻っている頃だ。
この二日間、本当に長い夜だった・・・
「・・・おやすみなさいませ、八重様」
だが、これで“終わり”ではない。
むしろ光太郎と八重がそれぞれ覚悟を決めた、これからが大変なのだ。
赤葦はそっと八重の寝室のドアを閉じると、険しい顔をしながら暗い廊下の天井を見上げた。
“───俺は・・・赤葦か京香のどちらかがそばにいてくれたら、それでいい”
「たとえ恨まれても・・・」
ああ、身体が冷たい。
ああ、心が重い。
「八重様・・・貴方には犠牲になってもらいます」
“───ありがとう、赤葦”
名を守るべきか、血を守るべきか。
それともその両方を守る道があるのか。
健気に木兎家を想っていた八重。
「その代わり、俺が全ての罪を背負って地獄に堕ちます」
そして、この狂った運命を正すのだ。
光臣、貴光、日美子、光太郎、八重の罪を、自分が代わりに背負って奈落の底へ沈めてこよう。
歯車が元通りとなり、姉も幸せになることができれば、それでいい。
赤葦は深呼吸を一つすると、暗闇に吸い込まれるように廊下を歩いていった。