【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「私が前にお願いしたことを・・・覚えておいででしょうか」
「・・・え・・・?」
白銀の月よ。
どうか俺の顔を照らさないでくれ。
きっと今、闇に潜む魔物のような表情をしているだろうから───
「木兎家の不利益になるようなことはなさらないでくださいと、菊合の時にお願いいたしました」
「でも、光太郎さんと結婚することこそ、木兎家のためになるのでしょう? なのに、何故・・・」
「貴方と旦那様が夫婦となれば、確かに“木兎家のため”にはなる。しかし、“木兎家を守る”ことにはならないでしょう」
───光太郎は当主として若すぎる。
それだけでない。
日清戦争がそうだったように、世界の強国相手に力を誇示しようとしている日本はこれから激動の時代になる。
そうなれば、昔の栄華に頼るだけの華族は、真っ先に滅んでいくだろう。
光太郎と赤葦に残された道。
それは、より強い権力を持った家との結びつきだ。
「八重様が嫁ぐ先によっては、木兎家は新しい時代で生き残る力を得られるかもしれない」
“血”を重んじて、光太郎と八重が結ばれるよりも・・・
“名”を重んじて、八重が他人と結ばれる方がいい、そう言いたいのか。
「無論、これは旦那様のお考えではなく、私個人の考え。いや・・・希望の類でしかありません」
しかもこれは机上の空論にすぎない。
そもそも、八重を見初める“権力者”がいるかどうかだが・・・
───布石はもう打ってある。
“木兎貴光様の御息女が帰国なされました”
「それでも八重様には、御心を決める前に考えていただきたいことなんです」
闇の中で静かに翼を広げる、梟。
赤葦の目は冷たく光っていた。