【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「赤葦」
寝室に入ると、寝間着の上に絹のガウンを羽織った八重は窓際の椅子に座っていた。
上等な造りとはいえ、当主夫妻の寝室よりは狭い部屋。
ドアの前に立っている赤葦と八重との間には数メートルの距離しかない。
「話って何?」
窓から差し込む月明りが、八重を頼りなげに照らす。
貴光譲りの細い曲線で描かれた顔立ちは美麗で、あと数年もすれば胡蝶蘭のように派手だった日美子とは対極的ながら、相当な美人に成長するだろう。
寝間着姿とはいえ、姿勢よく椅子に座る姿一つとっても彼女の中に流れる血が高貴なものであることは疑う余地すらない。
きっと貴方も俺のように、叩かれながら厳しく躾けられてきたのだろう。
「一つだけ確認させてください、八重様」
赤葦は八重のそばに立つと、氷のような瞳で主人を見下ろした。
「まさかとは思いますが、光臣様と日美子様の話を聞いたからといって、安直にも旦那様との結婚を決めるおつもりではないですよね?」
「は・・・?」
この男はいったい何を言い出すのだろうか?
八重は困惑した目を赤葦に向けた。
「何を言っているの・・・? だって、光太郎さんと結婚させるために私を引き取ったと言ったのは、貴方でしょう?!」
“八重様が光太郎様と結婚し、子どもをもうけてていただかなければ、木兎家は存続できないのです”
八重にそう言ったのは、確かに目の前に立つこの男だ。
「光臣様の実子ではない光太郎さんの代わりに、私の血で木兎家の血筋を守ればいいのでしょう。どうしてそんなことを聞くの?!」
疲労のせいで冷静な判断ができなくなっているのか、八重は赤葦の言い分も聞かずに珍しく声を荒げた。
「もちろん、まだ光太郎さんと結婚する覚悟を決めたわけではないわ・・・でも、それは私の宿命とさえ思っているのに」
「はい。家令として、そのお考えには感謝いたします」
だが、それでは困る───