【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
八重はいつも、寝る前に湯で顔を洗う。
そのあと、髪を梳かしてから緩く編み、寝巻に着替えるまでを手伝うのが家政婦の仕事だ。
「八重様、お湯をお持ちいたしました」
今日も京香が来るものと思っていたのだろう。
ドアを開けた八重は、ノックした人間が雪絵だと分かると不思議そうに首を傾げた。
「雪絵? 京香さんは・・・?」
「姉はもう下がらせました」
「あ、赤葦?!」
雪絵と洗面器を持ってきた家政婦の後ろにいたせいで、八重は赤葦の存在に気が付かなかったようだ。
しかし、その姿が目に入った瞬間、警戒するように眉間にシワを寄せる。
「どうして・・・光太郎さんは?」
「旦那様もお休みになられています。八重様にお話があって参りました」
「話・・・?」
昨晩から衝撃的な事実を聞かされてばかりだ。
これ以上、何があるというのか。
「まずは寝支度をお済ませください。話はそれからです」
「ちょっと・・・!」
「八重様のご寝室に入る許可は、旦那様より頂いております。あとは貴方のご承諾のみですが、もちろん許していただけますね?」
なんて高圧的な態度なのだろうか。
不快に思ってもおかしくないはずなのに、むしろ従うしかないような気持ちになってしまう。
恐らくそれは、常に真っ直ぐと伸びた背筋や、相手の心を見透かすような漆黒の瞳が、赤葦を酷く大人びた印象にしているせいもあるだろう。
「私と二人きりになることが不安ならば雪絵にも残っていただきます」
「・・・私を監視でもしたいの? “あの話”を聞いて、逃げ出さないかって」
光太郎と結婚しなければ、この家に置いてもらう理由は無くなる。
でも、この家以外に八重が行くところなどない。
監視するだけ無駄なのに・・・