【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「八重のことはお前に任せた。できるだけアイツが泣くことのないよう、守ってやって」
「はい、もちろんでございます」
「赤葦も八重のことを大事にしてくれているから、何も心配してねーけど!」
疑うことを知らない光太郎のその言葉に、京香の表情が曇った。
───京治が八重様のことを大事にしている・・・?
「それは・・・少し違うと思います」
弟は“墓”を掘っている。
誰にも知られず、全てを葬り去るための。
そして必要とあれば・・・
その深く、深く掘った穴に、八重すらも突き落とすだろう。
「京治にとっては・・・木兎家当主である光太郎さんが全てですから」
鹿鳴館で開かれる夜会に出席するため、八重がバッスルスタイルのドレスを纏ったあの夜。
“───白い薔薇のようでした”
赤葦は闇を見つめながら、八重を白薔薇に例えた。
かつて社交界が日美子の美しさを称える時に用いた、その花の名で八重の美しさを称えた。
“さすがは貴光様の御令嬢・・・木兎家直系の御血筋です”
「京治は考えすぎて自分を見失うことがあります。八重様を傷つけてしまうこともあるのでは、と・・・ただただ心配で・・・」
赤葦は日美子を憎んでいる。
だから、八重を白薔薇に例えた時、京香は赤葦の闇が八重にも襲い掛かるのではないかと恐ろしくなった。
「大丈夫だよ、京香」
俯く京香の頭上に光太郎の手がかざされる。
だが、京香の髪に触れるか触れないかギリギリの所で、その手は止まっていた。
「赤葦は絶対に八重を傷つけない。あいつは何が大切か、ちゃんと分かってる」
「光太郎さん・・・」
木兎家のために、何を守るべきか。
赤葦がそれを見失うはずがない。
自分の幸せや、自分の愛する人の幸せよりも先にそれを重んじてしまう人間なのだから。
「───だって、赤葦だもん!」
光太郎のその笑顔は、京香すらも飲み込もうとしていた木兎家の闇を晴らすほどの光を放っていた。