【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
ここには確かに赤葦と京香もいるはずなのに。
八重の瞳は今、光太郎の姿しか映していなかった。
籐椅子に座る光太郎もまた、色素の薄い瞳で八重だけを見つめている。
「八重・・・俺は、木兎光臣とは違う」
いくら家のためだろうと、八重を無理やり妻にすることはしない。
罪と過ちによって生まれる子は・・・自分だけでいい。
「気は長い方じゃねぇけど・・・八重の気持ちが固まるまで待つよ」
赤葦はそんな光太郎を見ていられなかったのか、珍しく顔を伏せた。
京香も手で口元を押さえ、込み上げる感情に耐えているようだ。
まだ十八歳の光太郎と、十七歳の八重にのしかかる重責は、とても二人だけでは背負いきれないだろう。
赤葦も京香も、自分の全てを投げうって光太郎と八重を支える覚悟はできている。
でも・・・
それでもきっと───足りない。
「おいで、八重」
その足りないものを探し求めるように広げた、光太郎の両腕。
それはまるで力強くて大きな鷲の翼のよう。
引き寄せられるままにそばへ行くと、翼は優しく八重を包み込んだ。
「お前、俺と先代に血の繋がりがないことを気にしてる?」
「・・・だって、光太郎さんがそのせいで傷ついるのではないかと思うと・・・」
すると、八重を膝に座らせている光太郎は、ニコッと太陽のような笑みを見せた。
「そりゃあ、俺が母上の私生子だって知った時は愕然としたよ」
日美子が死んだ後に光臣から聞かされた事実。
それはあまりにも衝撃的で、母を失った悲しみすら忘れるほどだった。
「でも、これだけは信じて欲しい。父上は俺を本当の息子として育ててくれた」
頭を撫でる手も、叱りつける声も、愛情が込められていた。
光太郎が高熱を出したり、高い木から落ちて大怪我を負った時などは、日美子と一緒に一晩中看病してくれた。
そんな父親だ、事実を知らされるまでは血の繋がりを一度として疑ったことは無かった。
貴光が八重に話した通り、光臣は確かに光太郎を目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた。