【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
木兎家が自分を引き取った本当の理由を知った翌日。
夕食後に光太郎に呼ばれ、八重は本館二階のサンルーム付きの部屋のドアをノックしていた。
「わざわざ来てもらって悪いな、八重」
京香とともに部屋に入ると、光太郎がいつもの笑顔で迎えてくれる。
その隣では、やはり赤葦が冷めた顔で立っていた。
話ならば食堂や書斎でもできただろうに、光太郎の自室ですらないこの部屋に呼ばれたのは、いったいどういうことだろう。
「あの、ここは・・・?」
すると光太郎は開け放したサンルームに置かれた籐椅子に腰かけて、ニコリと笑った。
「───父上と母上の寝室」
屋敷の中で一番上等だが、今は使われていない部屋。
日美子が亡くなってから、光臣は使用人に掃除や家具を動かすことを許さなかったのか、四隅の角に埃が溜まっている。
「俺と八重が夫婦になったら使う部屋だ」
部屋の中央には大きなベッドが一つ。
光臣が日美子にプレゼントしたものだろう、英国風のチェスナットブラウンの鏡台がそばで寂しげに佇んでいた。
「ベッドのシーツも、壁紙も、家具も、ぜぇーんぶ八重の好きなようにしていい!」
ここが自分の居場所と思えるように。
八重の好きなもので二人の寝室を埋め尽くそう。
「ガキの頃、よくこのサンルームで父上と母上と三人で朝飯を食ったんだ。朝陽が気持ちいーんだ、お前もきっと気に入るよ」
光臣は光太郎を膝の上に座らせ、日美子のために茶を淹れていた。
男が茶を淹れるなど…と渋い顔をしている家政婦の目も気にせず、ポットから茶を注ぐ光臣の大きな手が、光太郎は大好きだった。
いつか自分もこのサンルームで愛する人に茶を淹れてあげたい───そう思った。
「でも・・・」
光太郎は八重を見つめ、寂しそうに微笑んだ。
「───無理強いはしない」
木兎家当主と、その妻のために造られた部屋。
このベッドで共に過ごした最後の夜、光臣と日美子は何を思っていたのだろう。
同じ悲劇は・・・二度と起こしてはいけない。
これ以上、木兎家の運命の歯車を狂わせるわけにはいかないんだ。