【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「───八重様を傷つけたら、貴方を殺す」
二人を包む白薔薇の優しい香りとは正反対の、剣と剣がぶつかり合うような緊張感が走る。
「八重様は日美子様に代わる、木兎家の光。あの方の存在が私達にとってどれほどのものか、貴方だって・・・いいえ、貴方こそよく分かっているでしょう」
冷酷な目で睨む京香に、黒尾は“ハハッ”と嬉しそうに笑った。
「まさに“木兎家の懐刀”・・・だな」
木兎家が大名だった頃、その筆頭家老を務める赤葦家に生まれた女は皆、“別式女”として名を馳せていた。
別式女とは、男子禁制の“奥”で主君や妻たちを守る女性武芸者のこと。
赤葦家の女児は、幼い頃より別式女となるべく武芸を習い、その強さと気高さ、忠誠心から“木兎家の懐刀”と呼ばれていた。
そして、この明治の世でも“木兎家の懐刀”は生き続けている。
「赤葦が何をしようと、あんたさえいれば木兎は大丈夫だな」
暗い闇の中で黒猫は笑いながら、鋭利な女の唇に自分のそれを重ね返した。
───白薔薇の香り。
過去に捧げた誓いは、木兎家を守ること。
狂おしいまでの想いと懐かしさに駆り立てられ、黒尾は見えない糸を手繰り寄せるかのように京香の身体を抱きしめていた。
しんしんと更けていく、冷たい夜。
「こんばんわ、八重ちゃん」
「貴方は・・・」
それは黒尾が廊下で八重に彼女の使命を明かす、数十分前のことだった。