• テキストサイズ

【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第6章 冬霞







その八重と京香の会話から、過去に遡ること十二時間───

冬の夜風が窓硝子を揺らす暗い部屋で、二人の男女が重なり合っていた。

薄いドアの向こうは、使用人が行き来している廊下。

明かりを消した部屋と外界を隔てるように、背の高い男がドアを背もたれにして立っていた。
その男の胸に頬をぴたりと寄せる女は、しなだれているというより、彼の動きを封じ込めているように見える。

「・・・そろそろ行かないと、木兎と赤葦が心配するんじゃない?」

男は軽い口調で気遣うふりをしながら、暗闇の中で青白く光る瞳を女に向けた。


「───このまま朝まであんたと一緒にいてもいいんだけど。な、京香ちゃん?」

「心にも無いことは口にしない方が良いわよ、黒尾さん」


ここは京香の寝室。
互いの存在を確認するための明かりといえば、開け放したカーテンの向こうから差し込んでくる、今にも霞んで消えてしまいそうな月光だけだ。


「私と朝まで一緒にいる気はないくせに」


京香は黒尾を見上げながら、造り物の笑みを可憐な口元に浮かべた。
細い指先をゆっくりと胸板から臍へと滑らせ、生々しい火照りが残るその場所にはあえて触れないよう下腹部のところで手を止める。

京香の相手を試すような触れ方に、黒尾は冷めた声で笑った。


「ああ。この香りが消える前には帰らせてもらう」


これがなければ、君と一緒にいる理由はないのだから。

部屋に充満するのは、白薔薇の香水。
二人の逢瀬の場には必ず、この香りが漂っていた。








/ 287ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp