【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「でも、二人で会うのはちょっと自信がないから、貴方も一緒にいてくれる?」
「もちろんです、八重様」
「ありがとう、京香さん」
八重のその言葉と笑顔はまさに今朝、光太郎が赤葦に見せていたものと同じで、京香は胸が締め付けられる思いがした。
赤葦家の人間として、もっと他に何かできることはないのか。
このままでは誰も幸せにならない。
───私の幸せなど、とうに諦めている。
だからこそ旦那様と八重様・・・そして、京治には幸せになってもらいたい。
心からそう願っているのに、自分の無力さに嘆くことしかできないのが本当に苦しい。
「あの、窓を開けますね・・・!」
顔を見られて八重に余計な不安を与えないよう、逃げるようにして窓の方へ行きガラス戸を開けた。
すると外から入ってきた風が、ある“香り”を八重のところへ運ぶ。
「───あれ・・・?」
ほのかに京香から香る、白薔薇の香水。
つい最近も、どこかで嗅いだような気がするが・・・
少し考え込んでから、思わず“あっ”と声を漏らしてしまった。
“・・・赤葦京治には気を付けろ”
そうだ、“彼”がつけていたんだ。
男の人だから随分と印象が変わっていたけれど、確かに同じ香り。
“悪かったよ、赤葦。お前の大事な八重ちゃんに触っちゃって”
「黒尾・・・さん・・・」
何故、彼は京香と同じ香りをまとっていたのだろうか。
白薔薇は代表的な女物の香水だから、普通は男性が使うものではない。
だけど、黒尾は確かにこの香りを漂わせていた。
「八重様?」
いや、ただの偶然ということも考えられる。
黒尾はつかみどころのない男だから、特に理由もなく女物の香水をつけていたのかもしれないし、どこかで間違って袖についてしまったということもあり得る。
今は余計なことを考えるのはよそう。
「なんでもないわ、大丈夫」
八重はそう言って、ニコリと微笑むだけにとどめておくことにした。