【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
“今、木兎家の未来を守れるのは貴方だけ。それは、光太郎様にもできないことなんです”
木兎家の“名”は、光太郎が爵位を継いだことで守られた。
しかし、八重が光太郎の子を身籠らないかぎり、“血”は途絶えることになる。
“八重のこの小さくて可愛い体には、お姫様の血が流れているんだよ”
お父さま・・・
私がその“血”を守らなければならないのでしょうか。
木兎家の未来を守るためには、それしかないのでしょうか。
まだ誰かを好きになったことすらない私に、光太郎さんの妻が務まるのでしょうか・・・?
ギュッと掛け布団の端を握った、その時だった。
コンコンとドアをノックする音が響く。
「───八重様、お目覚めでしょうか?」
十時を回っても起きてこない八重がさすがに心配になったのか、京香が握り飯を持って入ってきた。
「朝食を持って参りました。食欲がないようでしたら、何か柔らかいものでもお持ちします」
「ありがとう、京香さん」
身体を起こして笑顔を見せると、京香も安心したように微笑んだ。
「それより、ごめんなさい。今日はお習字のお稽古があったのに、こんなに朝寝坊をしてしまって」
「そのことについてご心配には及びません。京治から先生に連絡を入れてあります」
「赤葦が・・・? でも怒っていたでしょう」
「いいえ、むしろ八重様が普段ご起床になる時間よりも早くに使いを出していました。今日は最初からお休みいただくつもりだったのでしょう」
驚いた、稽古を無断で欠席しようものなら絶対に怒ると思っていたのに。
すると京香は八重の着替えを手伝いながら、つらそうに眉根を寄せた。
「京治なりに八重様のことを心配しているのです。お聞きになったのですよね・・・光臣様と旦那様には血の繋がりがないこと・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
無言で頷く八重を見て、京香の心に宿る負い目が重みを増す。
赤葦家は代々、木兎家を支えてきた家系なのに、その長女でありながら八重のために何もできない自分が歯がゆかった。