【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
翌朝。
八重が目を覚ますと、すでに寝室のカーテンは開かれていた。
おそらく京香が起こしにきたものの、寝入っている八重を気遣って空気の入れ替えだけしていったのだろう。
「・・・・・・・・・・・・」
時計を見ると、もう十時になろうとしている。
確か午前中は習字の稽古の予定だったが、もう間に合わない。
赤葦は怒っているだろうか・・・
花道。
茶道。
香道。
赤葦は日本の礼儀作法を八重に習得させようとしている。
それは“英国育ちだから”という理由だと思っていたが、本当は光太郎の妻に相応しい女性となってもらうためだと知った今、気持ちが揺らいでしまっている自分がいた。
「駄目だ・・・赤葦に認めさせるって決めたのに・・・」
でも、認めてもらうって・・・何を?
“木兎家の令嬢”ではなく、“光太郎の妻”として認めてもらうというのか?
頭まで被っていた布団をずらして天井を見上げると、ワインレッドの地に花柄の壁紙が目に入った。
“日美子様の母上は英国人でした”
赤葦の言葉を聞いて納得のいったことが一つある。
それは、もともとは日美子のものだったというこの部屋だ。
家具や調度品の多くは赤葦が入れ替えてしまったそうだが、壁紙やいくつかの装飾品は英国を思わせる。
それらは日美子が選んだもので、英国人の母親を想ってのことだったのかもしれない。
そのおかげで、木兎家に来たばかりの頃は、英国情緒が漂うこの部屋に心が慰められた。
「ふ・・・」
花模様が規則的に繰り返されている壁紙は、英国の貴光の屋敷でも使われていた。
両親の顔をふと思い出して、急に目頭が熱くなる。
“八重はきっと素晴らしいレディになるから、王子様にも巡り合えるだろう。でも今は私の・・・私だけのお姫様だ”
穏やかで優しかった父。
今思えば、貴光は八重をなるべく本家から遠ざけようとしている節があった。
光臣や日美子のことはほとんど話さなかったし、八重に日本語は教えても、日本の教養を身に付けさせなかったのが何よりの証拠だろう。