【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
東棟の三階にある、中庭に面した角部屋。
そこは滅多に人が入ることがないせいか、鍵穴に鍵を入れるとガリガリと錆びついた音を立てる。
ドアを開けた途端、古びた紙の臭いの空気が溢れ出てきた。
手に持ったランプの光で、チラチラと埃が反射しているところを見るに、自分以外の人間がここに入った形跡は無いようだ。
“ここは私だけが知っている、秘密の花園”
東棟の三階にある、小さな書庫。
使わない古書をしまっておくだけのこの部屋を訪ねる者は、赤葦以外には誰もいない。
光太郎にいたっては、この部屋の存在を知っているかどうかさえ怪しいところだ。
壁と床はカビと埃の匂いが染み込み、部屋の至るところに本が乱雑に積まれている。
しかしかつて、この書庫を心の拠り所にしている人がいた。
“京治、これを貴方にあげる”
赤葦は朽ちて壊れかかった本棚の一番上から、一冊の本を手に取った。
エンジ色に塗られた革製の表紙には、駒鳥の絵が刻まれている。
“赦してもらえるとは思っていないわ・・・それでも言わせて”
美しい人は泣いていた。
夜空に浮かぶ月の欠片のような涙を零しながら。
“───京治・・・私を許して・・・”
暗く、牢獄のような秘密の花園。
ここは数々の記憶を葬る墓場だ。
赤葦は本を持ったまま、窓のある壁を背もたれにして座り込んだ。
「・・・Who'll dig his grave」
誰がコマドリの墓を掘るのか
「I, said the Owl, with my pick and shovel, I'll dig his grave」
それは私、梟が言った
私のピックとシャベルで墓を掘ろう
「俺が・・・墓を掘ろう・・・」
全てを葬り去ろう。
赦されない罪も、
許されない恋も、
全て闇の中に埋めてしまおう。