【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
赤葦はそこまで語ると、小さく一息ついて壁時計に目をやった。
もうすぐ二十三時になろうとしている。
そろそろ八重を寝室に帰さないと京香が心配するか。
「八重様、大丈夫ですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
青ざめているのは、疲労のせいだけではないだろう。
両親を失い、今や頼れるのは光太郎だけだというのに、その光太郎は先代の実子ではいと知らされたのだ。
この家に呼ばれたのは直系の子孫を残すためだったと知り、混乱しているのがはっきりと見て取れた。
「八重様はもうお休みになってください。今日のことは・・・私から旦那様にお話しておきます」
光太郎の出生の秘密を八重に明かしたのは、時期尚早だったかもしれない。
いずれ知ることだったにしても、もっと違う形で伝えることができたはず。
「お休みなさいませ、八重様」
無言のまま部屋から出ていく八重の後ろ姿を、赤葦は静かに見つめていた。
その脳裏によぎるのは、初めて八重の存在を知った日のこと。
“俺には一つ年下のイトコが英国にいるんだって! 京治、お前と同じ歳だ”
まるで宝物を発見したように興奮気味に話す光太郎は、まだあどけない少年だった。
“いつか会ってみたいな!”
光臣と日美子の愛情を一身に受け、こんな未来は想像すらしていなかっただろうあの頃。
ついぞ果たされることは無かったが、八重に英語で手紙を書くと息巻いていたっけ。
「俺と姉さんもそうだった・・・」
きっと光太郎のように明るい色の目をしているかもしれない。
その笑顔は太陽のように温かいのかもしれない。
一生会えぬ可能性だってある少女に、赤葦と京香は憧れのような感情を抱いていた。