【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第6章 冬霞
「結局、周囲の反対を押し切って光臣様は日美子様と結婚なされました。光臣様が二十一歳、日美子様が十五歳の時です」
しかし、ここで悲劇が起きた。
「御二人が新枕を交わされた時、光臣様は想いの強さからか日美子様に無理をさせ、傷つけてしまいました」
まだ身体が十分に発達していないせいもあったのだろう。
日美子はその時から性交を酷く怖がるようになってしまった。
いくら光臣が優しく触れても泣いて怯える始末で、結局、夫婦の営みは初夜が最後となってしまった。
「それでも光臣様は辛抱強く日美子様の心が開くのを待たれました。そのまま月日が経ち、光圀様が病に倒れたことで光臣様が爵位を継ぐことになりました」
新たな県令として、かつての木兎家の領地に半年ほど滞在していた光臣。
その間、日美子は東京に一人でいた。
時を同じくして兄のような存在だった貴光が英国に渡ってしまった心細さと、跡継ぎを産まない周囲からの非難に対する負い目があったのだろう。
───追い詰められた日美子に間違いが起きた。
「半年ぶりに光臣様が東京に戻ってきた時、日美子様は懐妊されていました」
ここまでの話は、当時の木兎家家令として光臣を支えていた父親から聞いたもの。
そして、日美子の妊娠を知った時の光臣の様子については、流石の父も語ることはなかった。
「ただ、光臣様は私の父と、闇路など数名の使用人にこう言ったそうです」
“日美子の腹の中にいる子が、誰の種かを詮索することは許さない”
それは無理やり日美子を妻にした、光臣の自責の念もあったのかもしれない。
“何があろうと日美子から生まれてくる子は、木兎光臣の嫡子とする”
間もなくして玉のような男児が産まれ、木兎光太郎と名付けられた。
───二つ目の運命の歯車が狂った瞬間だった。