【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「・・・そこまでして“木兎家”が私を選ぶ理由とは何なの?」
先日の夜会には、清水家の潔子を始め、若くて美しい淑女がたくさんいた。
赤葦がその気になれば、良い花嫁候補だっていくらでも見つけられるだろう。
いくら親戚とはいえ、一度も会ったことがない八重の戸籍を変えてまで妻とする必要はどこにあるというのか。
「光太郎さんは誰からも愛される御方です。私よりもずっと、光太郎さんの妻として相応しい女性がいるのではないですか?」
「相応しい女性・・・?」
八重の言葉を反復した途端、赤葦の顔に初めて変化が現れた。
眉間にシワを寄せ、無理やり言葉を抑え込むように唇を噛む。
「確かに、旦那様に相応しい女性は他にいるかもしれません。でも、旦那様の妻は貴方でなければ駄目なのです」
その声は僅かに震えていた。
怒りもあるかもしれないが、むしろ───
「八重様は私に仰いましたね・・・“未来の木兎家を守るのは自分だ”と」
深い悲しみと切実な想いが、彼の声を震わせているように思えた。
「今、木兎家の未来を守れるのは貴方だけ。それは、光太郎様にもできないことなんです」
「え・・・どういう・・・こと・・・?」
ドクン・・・ドクン・・・と、心臓の鼓動が少しずつ速まっていく。
夜の静けさと冷たさが、いっそう重く感じられるのは・・・動揺のせいか。
怖い・・・
赤葦は・・・いったい何を言うつもりなの・・・?
「───光太郎様が・・・光臣様の血を受け継いだ実子ではないからです」
その瞬間、泣き出してしまいそうな衝動が喉元からせり上がってきた。