【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
まるで時間が止まったように言葉も声も出てこなかった。
光太郎が光臣の実子ではない・・・?
ということは、光太郎の身体に木兎家の血は流れていない。
絶句している八重に揺らいだ瞳を向けながら、赤葦は先を続けた。
「ですが、光臣様には他に子がいません。そして、貴光様の子は貴方だけ」
よって今、木兎家直系の血を引く者は八重、ただ一人───
「だから八重様が光太郎様と結婚し、子どもをもうけてていただかなければ、木兎家は存続できないのです」
呼吸をしているはずなのに、息が苦しい。
赤葦の言葉が聞こえているはずなのに、何を言っているのかが分からない。
“八重のこの小さくて可愛い体には、お姫様の血が流れているんだよ”
父の言葉が蘇った。
“直系の血を引く女だから、木兎家の姫。俺や赤葦、京香にとってお前はそういう存在だ”
光太郎の言葉が蘇った。
彼らはいったいどういう気持ちで言ったのだろう・・・
父は優しい笑顔に、光太郎は明るい笑顔に、累々たる思いを隠し、八重に未来を託そうとしていたのだろうか。
「教えて、赤葦・・・どうして・・・こんなことになってしまったの・・・?」
光臣は実の子でもないのに、光太郎を可愛がっていたのか・・・?
光太郎はそれを知っていて爵位を継ぎ、一度も会ったことのない娘との結婚を決めたのか・・・?
すると赤葦は静かに目を閉じ、口を開いた。
「運命の歯車が狂ってしまったのは、“たった一度の過ちのせい”という人もいるかもしれません・・・だが、私は“深すぎた愛”が全てを狂わせたのだと思っています」
そしてゆっくりと語り始める、木兎家の悲しい過去───