【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「そこで何をしているんですか」
冷たい声が八重の背後から聞こえてくる。
振り返らずとも、それが木兎家家令のものであることは明らかだった。
なかなか玄関に降りてこない黒尾を迎えにきたのだろう。
赤葦はすたすたと八重の脇を過ぎると、二人の間を塞ぐように立った。
「八重様に用があるなら私を通してください。いくら旦那様のご友人といえど、貴方が気軽に声をかけていい御方ではない」
「そんな怖い顔をするなよ。何なの、この家の家令は用心棒も務めてんの?」
小馬鹿にしたような態度に、赤葦の不機嫌さが増していく。
だが黒尾はそれすらも楽しんでいるようだった。
「お前んとこの主はどうも意気地が無ェようだから、親切に教えてやっていたんだよ。感謝して欲しいくらいだね」
「何を教えたというんです?」
「八重ちゃんは木兎の嫁になるために本家に引き取られたってことをさ」
「・・・・・・・・・・・・」
意外にも赤葦の表情は、黒尾を蔑んでいる以外は特に変化が無かった。
いや、それはもしかしたら機械的なスピードで考えていたせいかもしれない。
光太郎と結婚させるために呼んだことを八重に知られた、その対処についてを。
そして数秒してから赤葦は氷のような瞳を黒尾に向けた。
「馬車が待っています、今宵はもうお引き取り頂けますか」
「へぇ、動揺も怒りもしねェんだ。流石だな、お前」
「・・・・・・・・・・・・」
八重は赤葦の微動だにしない背中を見ていることしかできなかった。
黒尾には“怒り”が見えていないようだが、八重には赤葦のスッと伸びた背筋から明らかな苛立ちが漂うのを感じていた。
「分かった、今日はもう帰るよ。八重ちゃんとも話せたし」
はっきりと嫌悪感を出している赤葦だが、黒尾はそんな赤葦を面白いと思っているのか、ニヤニヤと笑いながら肩を叩いた。
そして赤葦の横を通り過ぎ、八重のそばに立った途端、火に油を注ぐような行動を取る。