【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第2章 秋霖 ①
「先代が望まれたことじゃないですか。私は当然のことをしたまでです」
「でも、手続きとか色々大変だったんだろ」
「・・・・・・・・・・・・」
「父上が八重を引き取ると言い出した時は、闇路でさえも戸惑っていた。使用人の中には不信感を持つ者もいたんじゃない?」
光太郎の声はどこか切ない。
諦めにも似たその口調に、赤葦は眉間に深いシワを刻ませた。
「使用人が主に対して不信感を持つ・・・? 仮にそのような者いたとしたら、私が即刻解雇します」
「そう怖い顔するなよ、赤葦」
「貴方は今や、木兎家の当主なのですよ。何も考えずただ堂々としていればいいんです」
貴方は人の上に立つべく生まれた御方なのだから。
先代・光臣様のように───
「・・・俺は父上と違うよ」
光太郎は窓の方へ顔を背けながら、困ったように微笑んだ。
光太郎の父、木兎光臣は社交界で常に注目の的だった。
文武両道であるだけでなく、容姿も優れていたため、若い頃は縁談の話が絶えなかったという。
さんざん浮名を流した光臣だったが、子爵家の娘である日美子を妻にしてからは芸者遊びすらやめ、仲睦まじい夫婦として評判となった。
「母上が死んでから、父上はおかしくなった」
半年前に日美子が事故死すると、四十九日を迎える前に偽りの病気を理由に隠居を申請してしまった父。
十八歳の光太郎が家督を継いだから、木兎家は爵位を剥奪されずにすんでいる。
「でも使用人達には不安な思いをさせているだろうな」
光臣は、横浜の家に引き取られた八重を本家に迎えるよう言い残すと、家政など全てを放り出して伊豆の別邸に引きこもってしまった。
愛した女性を失った男の末路は、こうも惨めなものなのか。
「赤葦と闇路がいなかったら、この家は断絶していたと思う。だから、赤葦には感謝してる!」
俺、一人じゃ何にもできないし! と言って、屈託なく笑う光太郎。
そんな主を見て、赤葦は胸が苦しくなった。