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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第2章 秋霖 ①







一年前。
八重の両親が労咳で死んだ。

1884年の華族令によって伯爵に叙せられた木兎家。
その次男だった父・貴光は、二十一歳の時に横浜の貿易商の娘と結婚し、妻とともに留学のため英国へ渡った。
名門オックスフォード大学で学んでいた貴光は、語学や英文学のみならず、数学などでも優秀な成績を収めていたという。

次男という自由な立場から、そのまま学者として永住するつもりだったのだろう。
娘の八重には英国式の教育を受けさせ、日本のしきたりや風習を十分に学ばせることはなかった。

華やかな本家と違い、異国の地で慎ましやかに暮らしていた親子三人。
とても幸せだった。

突然の病魔が、貴光と妻を襲うまでは───



「旦那様、もうお休みになってください。明日も学校でしょう」
「うん」

夕食後、自室で一人寂しく晩酌をしていた光太郎は、少し赤い顔をしながら赤葦を振り返った。

「灯りもつけずにどうしたんですか」
「月が見えるかなーって思って。秋は月見酒だろ」

寝間着姿でニコリと笑う光太郎に、赤葦は小さく溜息をついた。

「白湯を持ってきました。寝る前に酔いを覚ましてください」

普段なら、学生でありながら夜会でもないのに酒を飲むなんて、と目を吊り上げるところだが、今日は大目にみよう。
彼なりに思う所があるのだろう。

「八重は?」

「八重様はお休みになられました。気疲れもあったのでしょう」

「そっか・・・ありがとな、赤葦」

「“ありがとう”とは?」

今宵は月が出ていないはずなのに、大きな瞳が光っているのは色素が薄いせいか。
まるで梟のようだ・・・と赤葦はボンヤリと思った。

「んー? そのまんまの意味だけど」

光太郎の笑顔が柔らかいのは、酒のせいだけではない。
この能面のような家令に対して、心から感謝しているからだ。

「赤葦がいたから、八重をうちに呼ぶことができた」

「・・・・・・・・・・・・・」

その言葉に赤葦の表情が僅かに強張る。
白湯を飲みながら微笑む光太郎に悟られないよう、部屋の暗い場所に一歩引いてから唇を噛んだ。






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