【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第2章 秋霖 ①
───その屈託のない笑顔・・・
「赤葦家の人間が仕える限り・・・木兎家が断絶することなどありえません」
貴方の笑顔は、闇に慣れた俺の目には眩しすぎる。
「御家と光太郎さんは、この赤葦が必ずお支えします」
それが、この身体に流れる“血”の宿命だから。
「・・・何、ニヤニヤしているんですか」
「いや、赤葦って本音で話す時は、俺のことを昔みたいに“光太郎さん”って呼ぶからさ」
「申し訳ありません、気をつけます」
「違うって!! もう旦那様って呼ぶのはやめようぜって言いたいの」
まったくこの人は・・・
主従関係を何だと思っているのだろう。
「それは駄目です。他の使用人に示しがつきませんから」
「なんだよ、そんなの気にすることないのに。お前ら“二人”とも頑固だよな」
「・・・・・・・・・・・・」
そんな、あからさまに寂しそうな顔をしないで欲しい。
良い意味でも悪い意味でも、放っておけないと感じさせてしまう方だ。
本当に・・・日美子様にそっくりな御人柄だな。
「それほど仰るなら、他に誰もいない時だけ」
「うん! それでいいよ」
いつも明るい光太郎だが、母親を亡くしただけでなく父親まで隠居して、本当は寂しいのかもしれない。
だから八重が来るや、待ちきれずに玄関まで飛び出してきたのだろう。
“お前は木兎家の人間なんだからな、八重!”
「なぁ、赤葦・・・父上が八重を呼んだのは、決して気まぐれの類ではない」
「・・・・・・・・・・・・」
「八重がこの家に来たのには、“理由”がある」
光太郎は月光に似た色の瞳を、切なげに揺らしながら微笑んだ。
「だから、早く“紅茶”を用意してあげなきゃな」
八重が一日でも早く、身も心も木兎家の人間になれるように。
「頼りにしてるぞ、赤葦!」
「・・・当然です」
光太郎さん。
貴方が人の上に立つべく生まれた御方であるように、俺がこの世に生を受けたのは───
「光太郎さんのために道を作ること・・・それが俺の役目ですので」
八重が木兎家にやってきた、その夜。
一日中降っていた雨は、いつの間にかやんでいた。