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【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】

第5章 菊合




「若利様・・・光太郎さんのこと、どうかよろしくお願いいたします」

「?」

まだ学生だが、いずれは若利も侯爵の爵位を継ぐ。
どんどん西欧化していくこの国で、若利と光太郎が必ず同じ道を歩むとは限らない。

「先ほど、光太郎さんとは“親しいわけではない”と仰っていましたし、光太郎さんも若利様には対抗意識が強いみたいですが・・・」

それでも、強く思う。


「御二人は互いを高め合う、とても良い御関係だと思います」


華族の機微を知る人間は限られている。
また、それを知っている人間が集まる華族社会というのは、欲望と野望にまみれている。

だからこそ、光太郎のそばには若利のような人間がいて欲しい。


「・・・・・・・・・・・・」


若利はしばらく黙ったまま八重を見つめていた。
色恋沙汰には疎い方だが、母が自分に何を期待しているかぐらいは理解しているつもりだ。
だからこの令嬢に庭を案内しているし、少なからず“会ってみたい”とも思っていた。

英国育ちで、本家とはほぼ無縁だったというが・・・

なるほど、彼女には木兎に通じる芯の強さを感じる。


「木兎八重・・・」


若利の口元に、珍しく笑みが浮かんだ。


「この庭の楓はもうすぐ葉が落ちてしまうが、いずれまた緑色の葉をつける」

「はい」

「雨が降れば、三尊石の緑もあいまって輝きを増し、見栄えがするだろう。ぜひお前にもそれを見せたい」


季節によって表情が様変わりする牛島家の庭園。
そこで育まれようとしている縁は、“政略”と呼ぶにはあまりにも純粋なものだった。


“もう二度と・・・二度と、木兎家のためにならない決断をしないで下さい”

赤葦・・・私は間違っていないわよね?
木兎家の人間として牛島家のお誘いに乗ってもいいのよね?


「はい、楽しみにしています・・・若利様」


牛島若利と木兎八重。
二人が出会ったのは偶然でなければ、必然でもない。

貴光への慕情を捨てきれなかった定子と、その定子の想いを利用した赤葦の思惑によって出会っただけのこと。

それでも若利と八重は互いにとってかけがえのない存在となり、またそれが木兎家を変え、牛島家をも変えていくこととなるが・・・

それはまだ少し先のこと───







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