【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
西軍と東軍に分かれて競う菊合は、その花の美しさも相まって盛り上がりを見せていた。
「英国でもお花を習っていたの?」
菊合には敗れてしまったものの、漆黒の花器に生けた菊花を持ってきた八重に、陸軍中将の妻が声をかけてきた。
“子爵家の娘といっても妾腹でしょう”
舞踏会で日美子のことを一番侮辱していた婦人に話しかけられ、八重は嫌悪感を顔に出さないよう努めながら返事をする。
「いいえ・・・お恥ずかしながら、この間、定子様に初めて手ほどきを受けました」
「そう、それでここまで生けるのは素晴らしいわ」
陸軍中将の妻は、扇子で顔を隠しながら八重を見た。
“八重様に二度と近づかないでください”
ああ、口惜しい。
この小娘の名前が出ると、赤葦は目の色を変えていた。
言われなくても、この令嬢と付き合うことに利などない。
光臣が当主でなくなった木兎家など、すぐに衰退するだろう。
その前に何としても赤葦を引き抜き、情夫として囲っておきたい。
「あの・・・どうかなされましたか?」
「いいえ、なんでもなくてよ」
木兎家特有の黒い瞳で怪訝そうに見てくる八重に、夫人は軽い苛立ちを覚えた。
光太郎は貴族としての資質が、光臣に遠く及ばない。
容姿だって光臣の方が遥かに美しかったし、まだこの小娘の方が木兎の血を忠実に残している。
下賤な女の血が混ざり、木兎家の名は地に落ちた。
だが、それももう自分には関係ない。
意地の悪い笑みを浮かべ、中将夫人が八重を見据えたその時だった。
「八重さん、ちょっといいかしら」
それまで他の客をもてなしていた牛島夫人が八重を呼び止めた。
何とか定子の気を引こうと花を褒め称えようとした中将夫人には一瞥を与えただけで、ニコやかな笑みを八重に向ける。
「私の息子をぜひ貴方に紹介したいと思って」
すると、女性ばかりの集会が急に色めき立ち始めた。
「───牛島家長男、若利よ」
牛島夫人の横に立つ青年を見た瞬間、八重の瞳が大きく広がった。