【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「ごめんなさい、光太郎さん」
「え、なんで?」
「優柔不断な私に呆れていますよね・・・」
申し訳なさそうに八重が頭を下げると、光太郎はちょっと考え込んでから、ニカッと笑って両腕を左右に広げた。
「八重、おいで!」
「・・・?」
「おーいーで!」
それはつまり、“抱きしめてやるからそばに来い”ということなのだろうか。
いくら外国育ちとはいえ、ここまでのスキンシップは流石の八重も慣れていない。
助けを求めようにも、赤葦は相変わらず知らん顔をしているし、京香はニコニコとしているだけだ。
仕方なく腹を決めて光太郎のそばに寄ると、案の定、ギュッと抱きしめてきた。
「謝る必要なんかねェよ。だってお前は何も悪くないもん」
「光太郎さん、ちょっと苦しい」
ポンポンと背中を叩いてくれるのは嬉しいが、その力が強くてむせてしまう。
しかし見上げると、とても優しい顔で微笑んでいた。
「この間、牛島夫人の招待を辞退したいと言っていたお前に、俺たちはこう言った」
“八重様は木兎家のために、牛島夫人の招待を受けるべきだと考えております”と言った赤葦。
“私は八重様が望まれる通りにすべきだと考えております”と言った京香。
そして───
「俺は、“八重が決めた通りにすればいい”と言ったよな」
八重の決めることならば、菊合に参加しようがしまいが、光太郎にとってはどちらでも良かった。
「八重が“行く”と決めたのなら、それでいいじゃん」
この人の懐は、どうしてこんなにも深くて温かいのだろう。
別に責められているわけではないのに涙が出てきそうだ。
「何かして欲しいことがあったら、遠慮なく俺と赤葦に言えよ」
「はい」
「それと、ありがとな。家のことを考えてくれて」
「・・・はい」
暗闇に生きる赤葦とは違い、太陽から愛された人。
赤葦と京香が見守る中、光太郎は八重が落ち着くまでずっとそのまま抱きしめていた。