【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
驚いた・・・
あれだけ出席を拒んでいた八重はもう、何があっても牛島夫人の主催する花会に参加することはないと思っていた。
「それは・・・とても喜ばしいことですが、いったい何故?」
「貴方も言っていたでしょう? それが“木兎家のため”になる選択だって。それに思い出したのよ」
「思い出した・・・?」
「赤葦や京香さん、使用人達に支えてもらうのは“今”の木兎家。過去の木兎家でも、未来の木兎家でもない」
それでなくたって彼らには人生の大半を木兎家のために捧げてもらっている。
家の未来や過去のことまで世話をさせるわけにはいかない。
八重は光太郎に似た笑みを赤葦に向けた。
「過去の木兎家と、未来の木兎家を守るのは、光太郎さんと私の役目です」
先祖や光臣、日美子の名誉を守るのは。
未来へ繋ぐために血筋と財を守るのは。
家臣や使用人ではなく、木兎の血を引く光太郎と八重の仕事だ。
「だから私は日美子様を侮辱する人達から逃げちゃ駄目なのよ。ましてや、その尻ぬぐいを貴方や京香さんにさせては駄目だった」
だから赤葦。
貴方にはただ、自分の思う通りに光太郎さんを支えて欲しい。
「八重様・・・」
覚悟を決めた八重を前に、赤葦は言葉を失っていた。
「だから・・・頼りにしてるわ、赤葦」
───ああ・・・なんて人だ。
この方も光太郎さんと同じく、人の上に立つべく生まれた御方。
「・・・当然です」
貴方の笑顔も、闇に慣れた俺の目には眩しすぎる。
「木兎家のために道を作ること・・・それが俺の役目ですので」
赤葦は机の上に置かれたままの手紙を見るフリをして八重から視線を逸らすと、苦しそうにその瞳を揺らしていた。