【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「貴方はさっき私に聞いたわね。こんな自分を軽蔑するか、と」
赤葦と八重の間に差し込んだ光。
それが眩しかったのか、赤葦はわずかに目を細めた。
「私は貴方を軽蔑しません。なぜなら、それが木兎家のためだと信じての行動だと分かっているから」
私には貴方を理解するための時間が必要だ。
きっと心の内を察することが少しもできていないだろう。
それでも今の私にも、できる事がたった一つだけあります。
「使用人の仕事は、“今”の木兎家を支えること。貴方はそれに必要だと思うことを、信じるままにやってくれればいい」
今の私にできるのは、赤葦京治という一人の使用人を思いやること。
光太郎さんと違って、出会ってから日が浅いこの家令を“使う”ことは私にはできない。
それでも、こうして彼を思いやることで少しずつでも“使い方”を知っていくことができればいいと思う。
「八重・・・様・・・」
赤葦は珍しく無表情を崩していた。
驚きの色を見せる彼に、八重は右手を差し出す。
「先ほどの牛島夫人宛ての手紙をください」
「・・・どうするおつもりですか?」
「ごめんなさい。せっかく用意してもらったけれど、あの手紙はもう必要ありません」
“木兎家の人間”になることばかりに気を取られて、大事なことを忘れていた。
木兎家を支える側の人間たちのこと、そして木兎家の人間のあるべき姿を。
「私は菊合に出席します」
その瞬間、赤葦の瞳が大きく広がった。