【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「その時、彼の妻は産後の肥立ちが悪くて寝込んでいた。だから私との約束ではなく、できる限り妻のそばについていてあげたかったんだそう」
赤葦は八重が何故、そんな話をするのか分からなかった。
その疑問が二人の間の距離を少し広げ、そこに窓から入った暖かな陽の光が差す。
「お父様はその日、彼に休暇を与えました。そして私にこう言ったの」
“事情を知らなかったとはいえ、彼のことをよく知らないまま自分の我儘を通そうとしたのはいけない”
使用人は何があろうと主人に仕えるもの。
そう思っていた娘を諭した、貴光の言葉。
“使用人から約束を破る時は必ず、それだけの理由がある。彼らは普段、私達のために一日のほとんどを捧げてくれている。残った僅かな時間を自分の家族のために使っているんだ”
八重が貴光に本を読んでもらうように、使用人達も息子や娘が寝る前に本を読み聞かせているかもしれない
“いいかい、八重・・・人を使う立場の人間は、人の使い方を覚えなければいけないよ”
何故なら、彼らは主人の命令に背くことができないのだから。
主人にとっては些細な我儘が、使用人達の人生を大きく左右することもある。
“私の可愛いお姫様なら分かってくれるね? 人の使い方を知るためには───”
「相手のことを理解すること、思いやること、そして察すること」
八重は赤葦を見上げ、微笑んだ。