【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
英国貴族の嗜みの一つに乗馬がある。
当時、十歳だった八重はある日、牧場を管理する使用人と馬の乗り方を教えてもらう約束をしていた。
だが約束の日の朝、その使用人は貴光の屋敷に現れると、八重の小さな手を握りながら乗馬の練習は別の日にしてもらえないかと頼んできた。
“いやよ、約束をやぶるのはゆるさない!”
“お嬢様、申し訳ございません。いつか必ず、お約束を果たします”
“大人はいつも言うわ、“またいつか”って! その“いつか”は絶対に来ないのに”
駄々をこねる八重に、使用人は困ったような顔をしていた。
将来、社交界で恥をかかないため、貴族令嬢は幼いころから家庭教師をつけられ、厳しい躾を受ける。
同じ年頃の農民の子ども達が川で水遊びをしている頃、八重は暗い部屋の中で仏蘭西語の勉強。
同じ年頃の街の子ども達が旅芸人のショーに目を輝かせている頃、八重はひたすら刺繍の練習。
楽しみといえば、朝夕に菜園で飼っているニワトリにエサを撒く手伝いをする程度だった。
使用人もそんな八重に息抜きとして馬に乗せてやりたかった。
だから、涙目の令嬢にこう答えた。
“分かりました、お嬢様・・・馬に乗りに行きましょう”
しかし、それを止めたのは貴光だった。