【ハイキュー】駒鳥が啼く頃、鐘は鳴る【木兎&赤葦】
第5章 菊合
「私が初めて人を抱いたのは、光太郎様が爵位を継がれる時でした」
光臣が突然、爵位を投げ捨てて隠居してしまったため、光太郎が学生のまま家督を継ぐことになった。
しかし当然、光太郎が本当に華族の体面を守ることができるのか、宮内省で問題視された。
家令となった赤葦にとって最初の“裏”の仕事。
それは、宮内省の華族局長の妻と関係を持ち、光太郎の襲爵を認めさせることだった。
「そして、私が初めて人に抱かれたのは・・・貴方をお迎えする時でした」
平民となって木兎家の戸籍から抜けた八重を、貴光の娘としてもう一度迎えるため。
赤葦はかねてより男色の噂があった宮内省の高官からの誘いを受け、戸籍の書き変えを認めさせるに至った。
“ありがとな、赤葦”
八重がこの家に来た日の夜に見せた、光太郎の笑顔が蘇る。
“赤葦がいたから、八重をうちに呼ぶことができた”
「私は“梟”です。夜に鳴けば、誰かが闇に引きずり込まれる」
───そうやって守りたいものを守っていく。
「ご安心ください、八重様。貴方に私と同じことは絶対にさせません」
梟の瞳が八重を捕らえる。
だが、その儚さは光に救いを求めているようにも見えた。
「その代わり、木兎家の不利益になるようなことはなさらないでください」
貴方が素直に牛島夫人の招待を受けていれば、陸軍中将の妻などと寝ることはなかった。
「当主が若い家は、強力な後ろ盾が必要なことをどうか理解してください」
かつて貴光に恋心を抱いていた牛島夫人が、八重を気に入ることは確信していた。
だからこそ、八重と牛島夫人を引き合わせた。
それなのに、八重自らその縁を断ち切る真似をしようとは・・・
「もう二度と・・・二度と、木兎家のためにならない決断をしないで下さい」
赤葦のその嘆願には、自分の持てるもの全てを木兎家のために犠牲にする覚悟が込められていた。