第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
「捨て猫っていえばさー・・・」
その菊丸くんの言葉に、ピクっと肩が震える。
英二、人の話、聞いてる?、そう呆れ気味に返事をする不二くんには構わずに、菊丸くんが話し続ける。
「オレさ、ちょっと前に捨て猫見つけてさー・・・あいつ、ちゃんとあったかい家、見つかったかなー・・・?」
「・・・英二・・・」
なんとなく、その瞬間、いままでの二人の声のトーンが落ち着いた気がして、ドクンと胸が大きく震えた。
チラリと盗み見た彼の目は、またあの雨の東屋のときのようで・・・
やっぱり胸がざわめいて、菊丸くんから目が離せなくて・・・
「オレさ、持ってたタオル置いてきたんだけど、次の日気になって行ってみたら、段ボールごと無くなってたんだよね・・・」
「・・・きっと、素敵な家族に迎えられたんだと思うよ。」
「・・・ん、そだね・・・だといいな・・・」
菊丸くん、私、あの後、そのまま連れて帰ったんだよ・・・?
ネコ丸って名前をつけて、毎日元気に暴れ回ってるよ・・・?
「・・・そう、残念だけど、また誘うわ・・・ね、小宮山さん?」
執行部員さんの声にハッとして我に返る。
あ、いえ、何でもありません、慌てて前を向くと、失礼します、そう頭を下げる。
生徒会室をあとにしても、まだずっと胸がドキドキして・・・
菊丸くん、ネコ丸のこと、気にかけてくれてるんだ・・・
伝えたい・・・ネコ丸が、今、我が家で元気に暮らしてるって・・・
伝えたいけど・・・でも、どうしたら・・・?
やっぱり、無理だよね・・・
いくら考えてみても、私が連れ帰ったことは内緒にしたまま、ネコ丸のことだけ伝える方法なんて思いつかなくて・・・
仕方が無いよね・・・、そう自分に言い聞かせてため息をついた。