第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
「もう、名前は決まったの?」
「あ、うん!、あのね、ネコ丸って言うの!」
「・・・ネコ丸・・・お前、また、随分、個性的な名前をもらったのね?」
よろしくね、ネコ丸、そう言って私の腕の中のネコ丸の頭を撫でるお母さんに、個性的って・・・ひどい、なんて頬を膨らませつつ、生命に責任を持つことを快く許してくれたことに心から感謝した。
「あ、うん、分かったってば、ちょっと待って、ネコ丸。」
ネコ丸を拾った時のこと・・・つまりは、菊丸くんを好きになった時のことを思い出して、また胸がドキドキと高鳴り出す。
遊んで欲しくて、ピョンピョンと制服のスカートに飛びついてくるその様子に、着替えてからだってば、そう抱きあげて頬擦りする。
「あ、もう、ネコ丸!、そんなところに飛び乗ったらダメだってば!」
好奇心の塊の仔猫は、私に抱きかかえられて視線が高くなった途端、ジタバタと暴れてぴょんと手の中を飛び出してしまう。
飛び乗ったのは目の前の本棚、その拍子にバサバサと数冊の本や雑誌が床に散乱する。
「全く、もう・・・あ・・・」
落ちた雑誌を片付けようとしたところで目に飛び込んできたのは、今、街中を賑わせているバレンタインの特集ページ・・・
【大好きな彼への本命チョコはコレで決まり!】
沢山のハートに包まれたその特集ページには、リーズナブルなものから高級ブランドまで、沢山のチョコが紹介されていて・・・
大好きな・・・彼・・・
その言葉に思い浮かぶのは、菊丸英二くんの顔・・・
だから、私には関係ないったら!
【不器用さんでも失敗しない簡単レシピ!】
ため息をついて捲った次のページで、またしても目が釘付けになる。
不器用でも失敗しない・・・本当に・・・?
思わずそのページを読みふけってしまう。