第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
絶対、大丈夫、そう自信を持って望んだこのプランDだけど、実際に校内を素顔で歩くというものは、とても恥ずかしいものがあって・・・
自意識過剰かもしれないけれど、すれ違う人々の視線が、いつもとは全く別もののような気がして・・・
「・・・誰?」
「あんなキレイな娘、いたっけ?」
そんなすれ違う人々の声に、やっぱり、これは失敗だったかも、なんて、菊丸くんの教室に着く頃には、すっかり自信を無くしてしまっていた。
そもそも、いくら私だって分からなくても、あの状態の菊丸くんに、堂々と手渡しするってどう考えてもできるはずなくて・・・
教室内には数人の人だかり・・・
それは菊丸くんの周りに集まる女の子たちで出来たもの・・・
やっりー、サンキュー、そんな菊丸くんのはしゃいだ声がひびいてくる。
あの人たち、早くいなくならないかな・・・
でも、例えいなくなったとしても、教室には他の人が残ってるし、だいたい、学校で菊丸くんが一人っきりになることなんて、ありえない気がする・・・
いつだって菊丸くんの周りには、男女問わず、たくさんの人で溢れていて・・・
菊丸くんはいつもその中心で、ひときわ輝く笑顔で笑っていて・・・
だからこそ、あの寂しそうな目が、余計に私を惹き付けて・・・
結局、菊丸くんの教室に入る勇気はなくて、菊丸くんが一人になることもなさそうで、そのまま学校をあとにした。
だけどやっぱり諦めきれなくて、校門のところで立ち止まった。
はぁ・・・我ながら未練がましいなぁ・・・
校門に背中を預けながらカバンを開けると、中の紙袋を見つめながら、また大きくため息をつく。
途端に白く染まる吐息・・・
当たり前だけど二月の夕方は突き刺さるような寒さで・・・
そんなに寒いんだから、もうさっさと帰ればいいのに、どうしても帰ることが出来なくて・・・
かじかんで感覚がなくなっていく指先に、何度も白い息を吹きかけた。