第1章 【ビターチョコ】菊丸英二/夢主
「小宮山さんー、小宮山さんはチョコ、誰かにあげないのー?」
「・・・私がそんなことすると思いますか?」
「だよねー、小宮山さんはバレンタインなんて、一生関係なさそうだもんねー?」
学校で誰かが私に声をかけてくる時なんて、何か用事を押し付ける時か、こうして冷やかしの声をかけてくる時・・・
それはこんな日でも同じで・・・
ううん、こんな日だからこそ、尚更なのかもしれないけれど・・・
そんなからかいの声に、視線すらあわせず淡々と答えたけれど、本当は私だってバレンタインのチョコを持ってきていて・・・
去年はともかく、一昨年はあの人たちとみんなで友チョコの交換だってしたことあるし・・・
『璃音!、はい、ハッピーバレンタイン!』
『あ、ありがとう、私も、これ・・・友チョコの交換なんて、はじめてだから、緊張しちゃうけど・・・』
『なんで緊張なんてするのよ、やっぱ、璃音って可愛い!』
一気に蘇る偽りの友情・・・
色々な思いが駆け巡り、ズキンと胸がいたんで苦しくなる。
苦い記憶を思い出させる教室の雰囲気が耐えられず、そのまま本を閉じて教室をあとにしたけれど、教室の外だって何もそれは変わらなくて・・・
バレンタインなんて早く終わってしまえればいいのに・・・
そう消化しきれない過去を、必死に胸の奥へと押し込めた。
ナオちゃんとの辛い過去を心の奥底へとまた押し込めたり、菊丸くんへのチョコ、もとい、ネコ丸のタオルをどうしたらこっそり返せるか悩んだり、バレンタインに振り回されているうちに、あっという間に放課後になってしまった。
早くしないと、菊丸くん、帰っちゃうよね・・・
部活だってやってないし、本当にどうしたら・・・?